心境の変化

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以前は老後に漠然とした不安があって、子どもの世話にならなくてはと思っていましたが、自分たちの力で思うように生活できる方がやっぱり楽しいものですね」会社人間をやめて、今では郊外の“御殿”住まい。M夫さん一家は以前、都心の狭い一戸建てに住んでいた。会社人間のM夫さんにとっては仕事が第一・深夜帰宅もざらなので、とにかく会社に近いことを優先した。妻のF子さんは子どものことを考えて、緑の多い郊外に住みたがったが、仕事しか頭にないM夫さんは自分の主張を押し通した。その結果、敷地20坪、両隣とぴったりくっついた長屋のような家に、一家は15年住むことになった。M夫さんに心境の変化が訪れたのは、バブルがはじけてしばらくたったころだった。長引く不況会社はリストラを余儀なくされ、M夫さんの同期の人間も何人かがその犠牲となって会社を去っていった。M夫さんはかろうじて首はつながっていたものの、子会社に出向を命じられたのである。M夫さんにはこれが大きなショックだった。これまで会社に人生を捧げてきたようなものなのに、こんな仕打ちをされるとは…。

新たな目標の芽生え

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会社に失望したM夫さんは、急に家庭に慰めを求めるようになった。しかし、時すでに遅し。妻も子どももとっくの昔に、家庭を顧みないM夫さんに見切りをつけていた。突然、態度が変わって家族と交流を図ろうとするM夫さんに家族の目は冷たかった。会社にも家族にも見離され、索漠とした生活を送るM夫さん。宮仕えの虚しさを知ってしまった今となっては、子会社での仕事にも熱が入らない。残業はいっさいやめた。早々と帰宅するようになると、それまで寝る場所でしかなかった自宅が生活の場となり、いろいろなことが気になるようになった。とにかく隣家と近接しているので、においや音がもれてくる。お隣は今夜カレーか、などと夕食の献立までわかるほどだった。こんな家にはもう住めない!目標を失って意気消沈していたM夫さんの心の中に、新たな目標が芽生えてきた。家を建てるのだ。もっと環境のいいところに、もっと広いゆとりのある家を建てよう。いったん決心すると、仕事に注いでいたあの情熱とエネルギーがM夫さんの中に戻ってきた。M夫さんのこの計画に、狭い家にうんざりしていた家族は大賛成。ちょっぴりM夫さんを見直したような様子さえ見せた。M夫さんは新居建設のために前進した。